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    お好きな方をどうぞ

    【魔法使いの初恋 より 倉坂颯太と御木本櫻士】

     夏の夜、閉店後のカフェ・エニシ、掃除の後―テーブルにカップアイスが二つ。好きな方選んでいいよ、と御木本さんは言うけれど、これで喜んで選んでしまうのは子供っぽいよな、と颯太は思う。颯太は大人になりたいのだ。
     じゃあ、シェアしましょう、と提案すると、彼はいいよと応じておもむろにスプーンを手に取り―すくって面前に差し出されるアイスはバニラの香り。あの優しい声で、表情で、はい、あーん、と微笑まれたら、恥ずかしいのに抗えない。
     ―ん、待てよ。じゃあ次はオレの番?
     ハッと気づいて、今度は首まで熱くなる。御木本さんのように、普通の顔をして『あーん』なんて、できる気がしない……。
     大人への道のりは、長く険しい。

    おっ食べた、って御木本は思っている。餌付け感覚。閉店清掃付き授業はその後も継続しています。既刊三作品の中で最も年齢が高く、かつ二人の関係が肉欲に結びつきやすい設定になっているにもかかわらず、最もそういう行為からほど遠い颯太と御木本。なんなんだ。店長たちと一緒にやきもきしながら見守りたいです。

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    覚えてもいないくせに

    【アホの横山とカシコの中田より 中田周と横山健琉】

     大人になって知った健琉の酒癖――悪いのではない。ただ、気持ちよく酔って適当なことを言い、ストンと寝落ちて翌日は何も覚えていない。
     金曜の夜。今日の健琉も酔って寝落ちた。一方の周は、楽しい気分になりこそすれ記憶をなくすことはない。後片付けを終えて居間に戻る。畳の上で気持ちよさそうに寝息を立てる健琉を見下ろして、周は小さいため息をひとつ。
     本気か、それとも酒の上での冗談か。なあ、オレらも買おっか、指輪とか―人を喜ばせるだけ喜ばせて返事も聞かずに寝てしまい、朝になれば覚えてもいないなんて。自分ばかりドキドキして、こんなの絶対フェアじゃない。だから決めた、朝になったら言ってやる―昨日のアレはプロポーズか?
     お前もちょっとは、ドキドキしろ。

    本編は高校2年生ですがお題SSで一足飛びに大人になりました。就職二年目くらい。本編後二人は無事同じ大学に合格し、就職先はさすがに別々で、同棲はしてないけど健琉が周の家に入り浸っているというざっくり設定です。本編を書き終えたら以降は二次創作みたいなノリで書いてしまう僕の悪い癖。卒業後社会人設定です!

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    幸せがまわる

    【君はポップスターより 神谷優心と七尾賢太郎】

     賢ちゃん今日めっちゃええ笑顔やなあ、見てたらこっちまで幸せな気分になるわ――常連客に言われた、と賢太郎が電話口で笑う。喫茶店で仕事中の賢太郎を、優心はまだ見たことがない。だが想像はつく。人懐こい笑顔と穏やかな声。図体はでかいくせに、案外繊細。そして真面目。
     たぶんいつだっていい笑顔だと思う、だけど今日は特別? なんかええことあったん、と優心が問うと、賢太郎は小さく咳払い。発送連絡、きたから――何の、と聞くまでもない。明日発売のユーシンのソロ写真集の話だ。お互い顔は見えないのに、きっと二人して赤くなっている。
     正直恥ずかしい、でも嬉しい。賢太郎に見せられない仕事はしたくない。賢太郎の笑顔は優心の幸せ――そうやって幸せは、まわっていくのだ。

    グループメンバーのソロ写真集が出るくらいメジャーになったトイラブ…と思いきや、ファンクラブの限定アイテムあたりがありそうな線かと思っています。ユーシンの本にはエッセイも載っていて読みごたえがある体裁。賢太郎はまだ祖父の元で修行中で、常連客からは賢ちゃんとか兄ちゃんとか二代目とか呼ばれています。