テキスト

お好きな方をどうぞ

【魔法使いの初恋 より 倉坂颯太と御木本櫻士】

 夏の夜、閉店後のカフェ・エニシ、掃除の後―テーブルにカップアイスが二つ。好きな方選んでいいよ、と御木本さんは言うけれど、これで喜んで選んでしまうのは子供っぽいよな、と颯太は思う。颯太は大人になりたいのだ。
 じゃあ、シェアしましょう、と提案すると、彼はいいよと応じておもむろにスプーンを手に取り―すくって面前に差し出されるアイスはバニラの香り。あの優しい声で、表情で、はい、あーん、と微笑まれたら、恥ずかしいのに抗えない。
 ―ん、待てよ。じゃあ次はオレの番?
 ハッと気づいて、今度は首まで熱くなる。御木本さんのように、普通の顔をして『あーん』なんて、できる気がしない……。
 大人への道のりは、長く険しい。

おっ食べた、って御木本は思っている。餌付け感覚。閉店清掃付き授業はその後も継続しています。既刊三作品の中で最も年齢が高く、かつ二人の関係が肉欲に結びつきやすい設定になっているにもかかわらず、最もそういう行為からほど遠い颯太と御木本。なんなんだ。店長たちと一緒にやきもきしながら見守りたいです。