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    君はポップスター(6)

    (6)

     不意に吹いた風が頬を刺す――が、それほど寒いとは思わなかった。興奮しているせいだろう。
     優心はしばらく固まったように俯いていて、やがて小さく息を吐き、
    「ありがとう。なんか、できそうな気、してきた」
     そう言って笑った。
     街灯のあかりだけでは心もとないが、心なしか表情が晴れたような気がする――もしかしたら、賢太郎がそう思いたいだけかもしれないけれど。

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    君はポップスター(5)

    (5)

     言い募る優心にどうしても反論したくなって、賢太郎は言った。
    「え」
    「少なくともオレは、テレビで優心見たら元気になるしなあ。頑張ってんの見て応援したなるし。アイドルてそういうのやろ? 優心そのものやん」
     まあ自分の場合は、トイラブのユーシンより前に神谷優心を応援したい気持ちがあるわけだけれど――ふと視線を感じて振り向く。
    「……え、と、その」
     優心が、顎にマスクをひっかけたままでパクパクと口を開いたり閉じたりしている。 

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    君はポップスター(4)

    (4)

     名前を呼んで、なあ、と振り返る。
     公園の前を車が行き交い、スマホで何事かを話しながら歩道を通り過ぎる人がいて、公園は街灯だけが明るく、その足元の賢太郎と優心を照らしている。
     優心は、
    「……、」
     帽子の下で目を丸くして、ただ白い息だけを零しながらしばらく固まったように賢太郎を見つめて――それから、ぐい、とキャップのツバを掴んで俯いた。ぽつりと呟く、
    「……何で賢太郎て、いつもそうなんやろなあ……、」

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    君はポップスター(3)

    (3)

     賢太郎の卒業後の進路がようやく定まったのは、ほんの数日前のことだ。
     父親は継がなかった祖父の喫茶店を、賢太郎が続ける――せっかく大学まで行ったんやから、一度はどこかの会社に就職して、喫茶店やるのはその後でもええやんか、と両親は言った。学費を払ってもらっている手前、親の意見ももっともだとは思った。けれど、そろそろ歳やしなあ、と引退を匂わす祖父から店のことを教わるなら、回り道をしている暇はない。
     説得を続け、あまりいい顔をしていなかった両親、主に母親が、最近になってようやく折れてくれた。

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    君はポップスター(2)

    (2)

     優心が東京へ行ってから今日まで、顔を合わせたのは三回。デビュー前の年は二度帰省していて、去年は夏に一度だけ。このときは他の友達も一緒だったから、二人きりになるのは二年ぶり。
     会わない間もごく当たり前にメッセージは送り合っていたし、優心に時間があるときは通話もしていた。優心の仕事上『今はまだ秘密』というようなことは多々あって、それは絶対に言わないし、賢太郎も聞かない。だけど、仕事で疲れたとかダンス難しいとか、いろいろあってへこんでる、なんて言ってくることはよくあるし、悩み事があれば賢太郎聞いて、と打ち明けてくれる。メンバー同士遊びに行ったり買い物に出かけたりするし普通に仲がいいと言っていたから、賢太郎に相談するということは要するに『トイラブのユーシン』としてでなく『神谷優心』として尋ねているのだな、と思うので、賢太郎もそのつもりで返事をした。