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魔法使いの初恋(1)4
4
金曜日の午後三時前。三限の授業が終わってすぐ、颯太はカフェ・エニシに向かった。ちょうどお茶時だからもしかして混んでいるかも、それなら邪魔になってはいけないから、とにかくお礼だけ言って、コーヒーはテイクアウトにしよう、うん、そうしよう――御木本さんと、もっと普通に話をしてみたい、とは思うものの、何を話せばいいのかは見当もつかない。だからあらかじめ、逃げ道を作っている。
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魔法使いの初恋(1)3
3
『泉川飯店』は、中華料理を中心に提供する大衆食堂、いわゆる町中華の店だ。中心客層は、すぐ近くの工場や倉庫で働く人たち。学生はあまり来ない。昼は定食、夜はいわゆる『一杯飲み屋』のスタイルで、もう三十年近く営業していると聞いている。
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魔法使いの初恋(1)2
2
隣人は稲葉という一年上の先輩だ。名前の響きから連想してしまうせいか、顔つきがどこかうさぎに似ているな、と颯太はずっと思っている――そういう颯太はこの先輩にイタチかオコジョ、と言われたことがある。見た目と体格、共に小動物寄りなのはお互い様だ。
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魔法使いの初恋(1)1
(1)
1午後四時半の商店街は、強い西日を受けて金色に染まっていた。
夏の終わり、秋のはじめの晴れた夕方、倉坂颯太は眩しさに目を細めながら目的地に向かって足早に歩いている。